QN1比で処理能力7倍以上という謳い文句を見た瞬間、僕は呆れて声が出そうになった。

メーカー価格は59,400円だ。

前作のWH-1000XM5から買い替えるつもりで財布を開こうとしているなら、一旦深呼吸して立ち止まってほしい。

その派手な倍率は電車の走行音やオフィスの雑音が7分の1に消え失せる保証になるだろうか? 現実はそんな甘い話で動いていないはずだ。

7倍の処理速度という罠

本文図解1

ソニーが新型に積んだQN3は周囲の騒音と耳への装着状態を細かく計算するための頭脳に過ぎない。 イヤーカップに散らばる12個のマイクが入力を拾い、耳元の隙間までリアルタイムで補正する仕組みを備えている。

計算の手数が増えたことと耳に届く静けさの量は別枠の指標だ。

電車の走行音や空調の唸りを確かに静かにしてくれると実感する。 人の声や構内アナウンスの帯域まで綺麗にいなす挙動には技術の進化を感じるだろう。 だが、それは計算速度の数字に比例して世界が無音になる体験を意味しない。

通話用のマイクも左右合わせて6個に絞り、別のAIアルゴリズムで声を切り出す構造を選んでいる。 マイクの総数を通話品質の証拠だと思い込むのも避けた方がいい。

XM5から据え置かれた電池

本文図解2

新しい頭脳を積んだ代償なのか、再生時間は前世代から1秒も伸びていない。 ノイズキャンセリングを入れた状態で最大30時間という数字は前作とまったく同じ水準だ。

新型の看板を背負いながら、スタミナ面での進歩は完全に止まっている。

そのうえ、数時間ぶっ通しで耳を覆っているとイヤーパッドの内側が容赦なく蒸れてくる。 静けさの質が上がっても、耳の周りに熱がこもる不快感まで消えるわけじゃない。

競合のMOMENTUM 4は公式公称で最大60時間の再生を誇り、価格もXM6を下回る設定をつけている。 バッテリーの持ちと出費の軽さを最優先にする人なら、ソニーの新型を選ぶ理由が薄れるんじゃないか?

約6万円の設計費を裁く

本文図解3

じゃあ、この強気な値付けのどこに設計の必然性があるのか?

答えは持ち運びやすさと、隙間のない環境適応にあると思う。 前作で省かれて不満が噴出したヒンジの折りたたみ機構を、金属部品を使って復活させてきた。 付属のハードケースに小さく収まる収容力は毎日の通勤バッグや出張の荷物で確実に役立つはずだ。

静けさの倍率という宣伝文句に払うお金は1円もない。 僕が認めるのは装着のズレを瞬時に埋める補正力と持ち運ぶ道具としての割り切りに対してだ。

通勤電車や日々のウェブ会議で使い倒してカバンに放り込む生活なら、この投資を回収できる。 机の上だけで聴いてバッテリーの長さを求める人はXM5の値下がりを待つ方が賢明だ。

出典